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Peter The Tiger

風は冷たいが午後の日差しが心地よい4月のことだ
カフェのオープンテラス

1人でコーヒーを飲んでいた 黙ったまま 独り言なし

飲み始めてから10分が経過した
うーん
3分前から脳の奥で小さな灯を点したたこの疑問

「昔のパイナップルのほうがさ、食べると口の端が痒くなったよね?」


もちろん声には出してないのに・・

ボクに背を向け隣に座っていたオジサンが読んでいた本を閉じ振り返った
手に握られていたのは文庫本  表紙のタイトルは『ガープの世界』

オジサンはこう言った
「着色料だよ、昔のパイナップルはもっと濃かっただろ。アレは着色料なんだ、それで口が痒くなる」

「昔のパイナップルは今より味が濃かったかな?」

「味じゃなくて、色だよ。昔のパイナップルは黄色が濃かっただろ」

「どうして黄色を濃くするんですか?」

「そりゃー、濃い黄色が好きだからだよ、ミンナ」

「・・・・?」

着色料って、RAWパイナップルが? それとも缶詰パイナップルが?
人見知りなボクは彼に問いたださなかった


パイナップルの黄色が濃いと美味しそうにみえるのか?
黄色が濃いと「偉そうで立派にみえる」のか?

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思惟はあらぬ処へ移動した

あらぬ処への移動なのに、滑らかで破綻のない移動
1つの思惟の場面を消しながら、重ねて次の場面が出現する
オーバーラップ  ディゾルブ


動物園の「虎」はどうなのかな・・

「黄色が濃い」虎は体毛に着色料が入ってる?
「黄色が濃い」虎を噛んだら口が痒くなる?


ベンガル虎の「ピーター」はこの動物園の人気者だ

動物園にやってきて10年  老いは隠せない
快晴の日には太陽の光に晒され、毛づやの疲れや汚れが暴かれる

そこでボクの出番だ  
ボクはピーター専属のヘア・スタイリスト
ピーター自慢の「黄色の」体毛をスタイリングするんだ
毛染めカラーは、ピュア・イエロー、マット・イエロー、ライト・イエロー、ダーク・イエロー、
ブロンズ・イエローに、オレンジ系3種類、ブラウン系5種類、ブラック系3種類をつかって
精細に階調を整える  
日盛りの明るさに映えるように

カラーリングが終わったら、シャンプーで洗い流しトリートメントで毛質を保護する

手にたっぷりヘア・ムースをとりピーターの体毛全体になじませる
ドライヤーでブローしながら、手櫛で整える
体毛の中に空気を入れ、エアリーなふわふわ感を演出
ハード系ワックスで体毛の輪郭にエッジをきかせクールさを演出
黄色が濃くて「立派で偉そうだけど威張らない」素敵なピーターが出来上がる

HIPでPOPなピーターに変身した

首の後ろを手でなぞるとピーターは気持良さそうに眼を細め喉を鳴らす

楽屋に入って来た演出補の男が大きな声で言った「本番5分前です」

ピーターが叫ぶ " Now is the time ! Here we go ! "
『オーケィ。行くぜ、ピーター』
" Yes, the show must go on ! "
『今日は日曜日だ。会場にはたくさんの子供達が待っている。カッコつけてこいッ ! ピーター』
"Yes , I can do that"  
ピーターは叫ぶと後ろ足で立ち上がり、両前足を突き出しボクの両手とハイタッチした

駆け足でステージに飛び出ていったピーター

会場ではQueen 「We Will Rock You」が大音量で流れていた

ステージでポーズをキメるピーター

ピーターに恋する少女たちの嬌声と、ピーターに憧れる少年たちの喚声
興奮の渦は周囲の空気を鮮やかな黄色に染めた
鮮やかな黄色ってパイナップル・イエロー?まさか・・
ピーター・イエローだよ、勿論


ショーが終わりステージ上を歩くピーター
パフォーマンスによる息切れを隠し、ゆっくりと歩くピーター
子どもたちの歓声は鳴り止まない
その声にかき消されてしまったが、会場には園内放送が流れていた

『虎の黄色が濃いのは着色料が含まれているからです。
虎を噛まないでください。噛むと口が痒くなりますよ』


追加のカプチーノを持って来たバリスタな女性はボクの耳元で言った
「動物園では、虎を噛むことはできない、おそらく。
森の虎だって噛むことは簡単じゃない」

エスプレッソの液面にミルクで描かれていたのはモノクロームの虎
カプチーノのピーターは気持良さそうに眼を細めてボクを見ていた

ブログ『Nessun dorma』タイトルバックの猫のように
ピーターは眼を細めてボクを見ていた


Queen 「We Will Rock You and We Are The Champion」



【蛇足】
パイナップル、メロン、キウイは「タンパク分解酵素」が含まれてるので口が痒くなるらしい。着色料のせいじゃありませんからね。
この酵素のおかげで肉(タンパク質)が柔らかくなります。


ボクはこのブログで、どこに向かおうとしてるんだろ?

" You can check out anytime you like… but you can never leave "
( Eagles 「Hotel California」より )

まっ、いいか...



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