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Peter The Tiger

風は冷たいが午後の日差しが心地よい4月のことだ
カフェのオープンテラス

1人でコーヒーを飲んでいた 黙ったまま 独り言なし

飲み始めてから10分が経過した
うーん
3分前から脳の奥で小さな灯を点したたこの疑問

「昔のパイナップルのほうがさ、食べると口の端が痒くなったよね?」


もちろん声には出してないのに・・

ボクに背を向け隣に座っていたオジサンが読んでいた本を閉じ振り返った
手に握られていたのは文庫本  表紙のタイトルは『ガープの世界』

オジサンはこう言った
「着色料だよ、昔のパイナップルはもっと濃かっただろ。アレは着色料なんだ、それで口が痒くなる」

「昔のパイナップルは今より味が濃かったかな?」

「味じゃなくて、色だよ。昔のパイナップルは黄色が濃かっただろ」

「どうして黄色を濃くするんですか?」

「そりゃー、濃い黄色が好きだからだよ、ミンナ」

「・・・・?」

着色料って、RAWパイナップルが? それとも缶詰パイナップルが?
人見知りなボクは彼に問いたださなかった


パイナップルの黄色が濃いと美味しそうにみえるのか?
黄色が濃いと「偉そうで立派にみえる」のか?

SDIM1293@.jpg


思惟はあらぬ処へ移動した

あらぬ処への移動なのに、滑らかで破綻のない移動
1つの思惟の場面を消しながら、重ねて次の場面が出現する
オーバーラップ  ディゾルブ


動物園の「虎」はどうなのかな・・

「黄色が濃い」虎は体毛に着色料が入ってる?
「黄色が濃い」虎を噛んだら口が痒くなる?


ベンガル虎の「ピーター」はこの動物園の人気者だ

動物園にやってきて10年  老いは隠せない
快晴の日には太陽の光に晒され、毛づやの疲れや汚れが暴かれる

そこでボクの出番だ  
ボクはピーター専属のヘア・スタイリスト
ピーター自慢の「黄色の」体毛をスタイリングするんだ
毛染めカラーは、ピュア・イエロー、マット・イエロー、ライト・イエロー、ダーク・イエロー、
ブロンズ・イエローに、オレンジ系3種類、ブラウン系5種類、ブラック系3種類をつかって
精細に階調を整える  
日盛りの明るさに映えるように

カラーリングが終わったら、シャンプーで洗い流しトリートメントで毛質を保護する

手にたっぷりヘア・ムースをとりピーターの体毛全体になじませる
ドライヤーでブローしながら、手櫛で整える
体毛の中に空気を入れ、エアリーなふわふわ感を演出
ハード系ワックスで体毛の輪郭にエッジをきかせクールさを演出
黄色が濃くて「立派で偉そうだけど威張らない」素敵なピーターが出来上がる

HIPでPOPなピーターに変身した

首の後ろを手でなぞるとピーターは気持良さそうに眼を細め喉を鳴らす

楽屋に入って来た演出補の男が大きな声で言った「本番5分前です」

ピーターが叫ぶ " Now is the time ! Here we go ! "
『オーケィ。行くぜ、ピーター』
" Yes, the show must go on ! "
『今日は日曜日だ。会場にはたくさんの子供達が待っている。カッコつけてこいッ ! ピーター』
"Yes , I can do that"  
ピーターは叫ぶと後ろ足で立ち上がり、両前足を突き出しボクの両手とハイタッチした

駆け足でステージに飛び出ていったピーター

会場ではQueen 「We Will Rock You」が大音量で流れていた

ステージでポーズをキメるピーター

ピーターに恋する少女たちの嬌声と、ピーターに憧れる少年たちの喚声
興奮の渦は周囲の空気を鮮やかな黄色に染めた
鮮やかな黄色ってパイナップル・イエロー?まさか・・
ピーター・イエローだよ、勿論


ショーが終わりステージ上を歩くピーター
パフォーマンスによる息切れを隠し、ゆっくりと歩くピーター
子どもたちの歓声は鳴り止まない
その声にかき消されてしまったが、会場には園内放送が流れていた

『虎の黄色が濃いのは着色料が含まれているからです。
虎を噛まないでください。噛むと口が痒くなりますよ』


追加のカプチーノを持って来たバリスタな女性はボクの耳元で言った
「動物園では、虎を噛むことはできない、おそらく。
森の虎だって噛むことは簡単じゃない」

エスプレッソの液面にミルクで描かれていたのはモノクロームの虎
カプチーノのピーターは気持良さそうに眼を細めてボクを見ていた

ブログ『Nessun dorma』タイトルバックの猫のように
ピーターは眼を細めてボクを見ていた


Queen 「We Will Rock You and We Are The Champion」



【蛇足】
パイナップル、メロン、キウイは「タンパク分解酵素」が含まれてるので口が痒くなるらしい。着色料のせいじゃありませんからね。
この酵素のおかげで肉(タンパク質)が柔らかくなります。


ボクはこのブログで、どこに向かおうとしてるんだろ?

" You can check out anytime you like… but you can never leave "
( Eagles 「Hotel California」より )

まっ、いいか...



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コメント 23

ゆうみ

きっと風のふくまま 身を任せて どこかへ行くのよ。
by ゆうみ (2013-05-11 18:45) 

Sizuku

ベンガル虎のHIPでPOPなピーター、いいですね(^^)b
村上春樹さんの本を読んでいる時みたいな感覚に包まれました。
引き込まれます。C_BoYさんの世界に^^
by Sizuku (2013-05-11 23:00) 

sae

生のパイナップルは舌が痛くなったりもしたかなぁ。なんて、懐かしくなったり。
私もWe Will Rock Youが流れていたのなら、ピーター!と叫んだかな。と思ったり。
フレディ(QUEEN)が好き。
数年前に観た、ミュージカル(We Will Rock You)を思い出してみたり^^
by sae (2013-05-11 23:11) 

burubon

QueenのLPをリアルタイムで買っていた自分にはフレディの姿を
平常心で見ることはできません。。。。
by burubon (2013-05-11 23:24) 

ケロヨン

行きつくところの場所は誰も知らない?
楽しくて不思議で、素敵ですね。
by ケロヨン (2013-05-11 23:57) 

johncomeback

高校生の頃、Queenの登場に衝撃をうけました。
by johncomeback (2013-05-12 05:10) 

C_BoY

ゆうみ さん
追い風に勇気をもらって、向かい風は揚力に変えて空へ飛び立つ
まっ、そんなうまくはいかいけど、身を任せてですね...(^^)
by C_BoY (2013-05-12 18:03) 

C_BoY

Sizuku さん
村上春樹、ジョン・アーヴィングの物語世界に惹かれます。
ボクが興味があるのは、不思議と不可思議の間に何かあるんじゃいなか?それを、物語・映像・音を一体として提示する表現者に興味があってですね...何のことかっていうと、デヴィッド・リンチの大ファンなんですよ(^^)
by C_BoY (2013-05-12 18:11) 

C_BoY

sae さん
そうなんですよ、痒いんじゃなく痛痒くなって、次第にヒリヒリになって、酵素でタンパク質が溶けてたのかな...(^_^;)
by C_BoY (2013-05-12 18:14) 

C_BoY

burbon さん
現在のブライアン・メイとロジャー・テイラーはもっとビックリしますよ。肥大化したロジャー・テイラーは短パンはいたら、ホビット庄に住むホビットみたいです...(T_T)
by C_BoY (2013-05-12 18:20) 

C_BoY

ケロヨン さん
座右が「行き当たりばったり」、「風まかせ」、「出会い頭」ですから。誰も知らない場所だから、道をたずねても誰も知らないんだろうしね...(^_^;)
by C_BoY (2013-05-12 18:25) 

C_BoY

盛岡に「Led Zeppelin」という酒場があって、そこで酔った勢いでQueen好きを表明して、Zeppファンのおじさん達に半殺しに合うかと思ったらZepp好きもQueenを凄いと言ってくれて嬉しかったです。
当時Queenと10ccというタイプの違う2つのバンドにハマりその後ロキシー・ミュージックになだれ込んで行きました(^_^;)
by C_BoY (2013-05-12 18:33) 

sora

エスプレッソに浮かぶ虎は噛むことができたのでしょうか。
でもモノクローム…。濃い黄色の虎じゃないですもんね。
うーん、難しそう!!

by sora (2013-05-13 08:44) 

yuzuhane

C_BoY劇場満喫!
by yuzuhane (2013-05-13 10:53) 

C_BoY

sora さん
痛タタタッ、やっぱり文の流れとしてソコを突きますよね(T_T)
迷ったんですよ、黄色を入れたくて。黄色のミルクってないのかネットで検索したけど見つからなくて...そこで当ブログのタイトルバック写真ウチ猫「マル」の「眼を細めた」イメージを重ねるんだから、「モノクローム」としました。黄色より「眼を細めた」イメージを優先しました。カプチーノの絵なら黒、白、茶色だけど、マルのモノクロ写真に茶色はないので、ピーターの絵に茶色は入れませんでした(^_^;)
by C_BoY (2013-05-13 19:05) 

C_BoY

yuzuhane さん
本日もご来場ありがとうございます。
狭い劇場ですから、お足元お気をつけてお帰り下さい。
役者・照明・音響・スタッフ一同、またのご来場をお待ちしております。作・演出のボクはドキドキしておまちしてますので(^_^;)

「楽日はまだまだ先ですから、今後もよろしくお願いします」
by C_BoY (2013-05-13 19:09) 

katakiyo

我が家ではパイナップルを育てて3年目です。
今年あたり実がなって欲しい!
by katakiyo (2013-05-13 20:58) 

engrid

噛む夢をみる
噛まれた夢も見る
by engrid (2013-05-14 16:41) 

Sizuku

C_BoYさん、こんばんは!
私も村上春樹さんの物語の世界にとても惹かれるのですが
”不思議”の一言で片づけてしまうには物足りなさを感じる
彼の世界の中にふと迷い込んでしまった心地良さにどうしても惹かれてしまう
その感覚自体がつかみどころがまるで無いので
人にも自分にもそれを説明するのは難儀なことだと感じていました。

でも今、その理由が分かった気がしました。
不思議と不可思議の間にある何か(確かにそれは存在すると思います)に
私も興味があり、だから彼の物語の中に入って行くのかなと思ったのです。

ツイン・ピークス、すごくひき込まれてしまった事以外
綺麗サッパリ忘れてしまったので、また見たいなと思いました。
by Sizuku (2013-05-14 18:10) 

C_BoY

katakiyo さん
えっ、パイナップルって家庭菜園で栽培できるんですか?
実がなったときは「写真」をお願いします。katakiyoさんの、ちょっと沈んでんるけど艶やかなトーンで、暗所から明所にかけて破綻のない階調で表現される写真のパイナップルをお待ちています(^^)
by C_BoY (2013-05-14 18:52) 

C_BoY

engrid さん
噛んだ瞬間に弾ける香りと味、噛んだ瞬間に拡散する物語、噛んだ瞬間に飛翔する音楽に惹かれるんですよ。咀嚼して、理解してっていう作業が不要な料理、酒、物語・映像、音楽に惹かれるんですよね。
でも、噛まれるのはマルだけで充分です(^_^;)
by C_BoY (2013-05-14 19:01) 

C_BoY

不思議に振るか?不可思議に振るか?両者をないまぜにするかでプロットは妖かしな幻影に寄るか、哲学する不条理に寄るか...でも惹かれるのはなんといっても「混沌」、「膨張」、「昇華」、「破綻」...etc.いずれも不思議と不可思議の間に横たわってるけど、それが何処かは分からない状態、それに惹かれますボクは。
デヴィッド・リンチは初期の「イレーザーヘッド」や「エレファント・マン」が有名ですけど、ご指摘のように何と言っても「ツイン・ピークス」ですよね!
映画「ロスト・ハイウェイ」と「マルホランド・ドライブ」を是非観てください、怪しくて、分けわからなくって、最高です。観ると脳がムース状に柔らかくなります、キット。心配はご無用です、2-3日後には元の脳に戻りますから(^_^;)
by C_BoY (2013-05-14 19:16) 

sora

すごい!黄色いミルクも探したのですね!
その行動に脱帽です!見習わなくては。^^
by sora (2013-05-15 18:12) 

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