SSブログ

A House Cat Named Maru

そう…'98年のことだった。
玄関ドアを叩く音をボクは聞いた。
ドアを開けてみるとサバトラの猫が立っていた。
マルと名乗った。

「初めまして。入っていいかな?」

ボクの返事を待たずにマルは入ってきた。
4本の足で歩いて。
トコトコと短い歩幅で…とても猫らしい歩き方で。

玄関ホールから続くRに湾曲した廊下をマルは歩いて行った。
その先にあるのはリヴィング・ルーム。
Cハウスのただ1つの部屋。


マルは廊下を歩きながら思った。

『どうしてこの廊下は湾曲してるんだ?歩きにくいじゃないか。
まあ…いいさ。これは慣れれば問題ない。
ほお。廊下の先にはドアがない。
開放されたまま…廊下とリヴィング・ルームはシームレスに連続してるんだ』

マルは部屋のなかをひとしきり歩きまわったあとに上を見上げた。

『吹き抜けか?2階建ての高さの家の2階に部屋がない。
2階建ての高さの平屋…か。
うん。わるくない』

マルは黒革のソファに飛び乗りアームレストに頭と顔をこすりつけた。

『うん。この顔に当たる角が気持ち良い』

ソファに腹ばいになると左右の前足を交互に動かし座面を揉むように押した。

『うんうん。クッションとスプリングのコンディションは…わるくない』


マルはソファから飛び降りネコ科特有の…オーセンティックな姿勢というか。
そう。スフィンクスのような姿勢になった。
ゆっくり部屋を見渡すと…ボクに向かって話し始めた。

「イイ感じの空間だ。
良い塩梅でしかも過不足がない。大事なことだ。とても。
ココはオレに合う。フィットする。寄り添える。
たった今…決定した。
オレはココで暮らすことにした」

「・・・・ん?」


G0000305 のコピー.jpg



「今日からオレは家猫になる。
"ホテルの夜警は言った。リラックスしてくれ"
そう。オレはもうリラックスしている。
”キミを受け入れる準備はできている”
ありがとう。感謝するよ。
"チェックアウトはいつでもできる。でも2度とココからは立ち去れない"
心配するな。オレはココから出ていかない」

「何を言ってるんだ・・?」

「知らないのか…ホテル・カリフォルニア」

「ここはホテルじゃない。それにここは盛岡だ」

「”MORIOKAというその響きがロシア語みたいだった”
オマエも英米文学ばかり読んでないでロシア文学も読まなきゃな」

「・・・・・」

マルは急に話すのを中断して大きな欠伸をした。

「眠いのか…?」

「欠伸は習慣だ、みてのとおりオレは猫なんだから。
眠くなくても欠伸をするんだ。
そして…いつだって眠いしどこでも眠れるんだ、猫なんだから」

「・・・・・」

「それから。
オレはオマエの何処かに忍び込む。
オマエの電源は?オマエの核心は?
オレは必ず見つけ出してソレをくすぐる。
丹念に…肉球でソレをくすぐる。
丁寧に…爪でカリカリとソレを刺激する。
オマエは"ドーパミンに溢れた夢"をみることになる。
オマエの瞳孔は拡がる。闇夜の猫目のように。
いや違う、そうじゃない。
オレはドラッグのような化学物質じゃない。
だから…オレは猫なんだ。
オレは…オマエの何処かに忍び込む、猫なんだ」

「・・・・・」

「今はまだ理解しようとしなくていい。
オレは不思議な猫じゃない。
オマエにとってだけ特別な猫なんだ。
今日からオレは…オマエの相棒だ。
数ヶ月もすればオマエは理解することになる。
そう。良い塩梅の…過不足のない…相棒だと。
よく分からないか?」

「こういうこと?
数ヶ月後にはボクはこう確信する。
ボクとマルは…仲良しだ!」

「うん。オレはオマエのそのシンプルさが気に入った!」


'
ラジオからはオアシス「Wonderwall」が流れ部屋に溢れていた。

『キミに言わなきゃって思ってることがたくさんあるんだ。
だけどどう言っていいのかボクにはまるで分からない。

ボクは言ったはずだけどな。
ボクを救えるのキミだけだって。
…だから。
キミがボクの”魔法の壁”なんだよ・・・』 (訳:誰も寝てはならぬ屋)


DSCF0901 のコピー.jpg


Oasis 「Wonderwall」



タグ:マル

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。