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ドカドカ賑やかに


僕のなかのキャビネットを開けてみた。
引き出しの中のインデックスカード『まく』をみてみると。


【走り】:煙にまく・尾行をまく

【旬】:酒に酔ってくだをまく・ ネジを巻く

【名残】:種をまく・水をまく


走りの時期に種を蒔くことなくことなく旬に花を咲かせることなくきてしまった
僕の時間をインデックスカードは言い当てていた。

旬を過ぎたオッサンの名残な僕はこれから種を蒔いて水を撒きたいと思っている。


先日18才の友人と話す機会があった。
「本の話」がしたいと言って訪ねてきた。
彼は本好きで…星新一からアルベール・カミュまで手当たり次第に読んでいる。
彼は肉体を鍛えるのが好きで休日には市営のジムで器具を使い負荷をかけている。
18才の男は充分すぎるくらい複雑で多様だった。


僕が30代になるまでインターネットは普及していなかった。
僕が今なにがしかの文章をブログに書くことができるのはネットがあるからだ。
何か分からないコトがあったら聡明な先輩や学徒に聞くことはない。
ネットで「検索」する。
多くの情報に触れると、それを単純化して理解しようとするところが僕にはある。
僕は「シンプル」に惹かれ…ときに酔う。
けれど。
シンプルの背後には多様性がある。
1人の人間だって手に余るほどの多様性をもっている。
僕はその多様性に耳を傾けたい。
多様性は複雑な味わいをもってくる。
甘味・塩味・苦味・酸味・アルカリ味・渋味…めくるめく組み合わせ。

シンプルな「まとめ」や「結語」の背後にある多様性にとても興味がある。


『単純な行為の後ろにある複雑な物語を味わいたい』


主義や嗜好でシンプルに括られた人間の中にある多様性に興味がある。

僕と18才の彼のなかにある多様性を因数分解したとき共通因数で括れない多様性を彼には話した。

あまり豊かではない「精神的辺境」の僕のなかにある……
「種」について彼に話した。



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(岩手県立水沢高校はいわゆる「バンカラ」風制服のヤツがいて…写真部員が撮ってくれたこの写真に僕と一緒に写ってるのは「バンカラ」な応援団員です)



昨夜僕は、18才のオレと電話で話した。
ときには自分のまいた種で翻弄されていた18才のオレと。

オレ「まだ小説を読んでるの?」
僕「うん。年をとっても…架空好きのままだ」
オレ「映画は観てる?」
僕「今日も観た。『人生の特等席』っていう映画」
オレ「うん?」
僕「ビックリするぞ。ダーティハリーはスゲー監督になるんだ」
オレ「音楽は聴いてる」
僕「うん、聴いてる」
オレ「電話の向こうから聴こえるのは……?」
僕「U2」
オレ「ちょっと感動した。まだU2を聴いてくれてるなんて」
僕「そうか……」
オレ「まだビートが好きなんだね?」
僕「勿論だ!」
オレ「書いてる?」
僕「ぼちぼちな」
オレ「×××は……?」
僕「まっ最中だ!」
オレ「……わるくない」
僕「……ん?」
オレ「アリガトね」
僕「……」
オレ「アンタみたいなジジイになるなら……わるくない」

僕は思った。
わるくない。
「仕事はなにしてる?」「今は幸せ?」とか聞かない18才は…わるくない。


マルが言った。
「『走り』の小僧の時に種を蒔かない、水を撒かないできたから…
いつまでたっても『旬』にならないままオッサンになっちまった。
そんなオマエの何が『名残』だ!
これからも『走り』の小僧のままでいこうぜ。
聖杯を手に入れた円卓の騎士はキッド(小僧)・ガラハッドだった。
小僧で、走りのオッサンで…ドカドカ賑やかにいこうぜ」





拙ブログ『誰も寝てはならぬ』を開始したのは昨年2月24日のこと。
今後もよろしくお願いします。

オリオン横丁のマコちゃんのような天真爛漫なジジイを目指してドカドカいきます。


『エッジ……ブルーズをくれ!』


U2 「Ordinary Love」




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DJバトル


雪がしんしんと降り続けていた夜のこと。

リビングのテーブルの上にはビールとワイン、それにチーズが置いてあった。

ボクとサバトラ猫マルとでDJ合戦が始まった。
ボクがiPadで、マルがiPodだ。
それぞれが別々のスピーカーに接続されていた。

ボクとマルが交互に曲をかける。
前後の曲をミックスして途切れることなく曲を続ける。
なにを選曲するかはお互いの自由だ。

ボクが曲をかけてる最中に……
マルからアイ・コンタクトで「行くぞッ」と合図がきたら、
ボクは曲をフェイドアウトさせマルが次の曲をフェイドインする。

これが意外に緊張する…選曲のセンスが問われるからだ。
ボクが曲をミックスさせた時、マルがあきれ顔で苦笑いを浮かべたりすると
ボクはちょっと傷つく。

今回のDJ合戦はロックしばりだ。
ヒップホップなし、レゲエなし、エレクトロニカなし、ハウスなし……
ごりごりのロックだけだ。


テーマは「血湧き肉躍るDJ合戦」


ビールとワインを飲みながらお互いが曲の気に入ったパートをかけあった。
前後の曲の流れを一致させたり、
前後の曲のミックスでグルーヴさせたり、
時には意識的に相手の前曲を潰しに行く!


およそ1時間が経過したときだ。


マルがディープ・パープル「ハイウエィ・スター」のAメロをかけた。

『Nobody gonna beat my car I'm gonna race it to the ground
 Nobody gonna beat my car It's gonna break the speed of sound
 Ooh, it's a killing machine It's got everything
 Like a driving power Big fat tyres and everything

 I love it and I need it, I feed it 
 Yeah, it turns me on
 Alright, hold tight
 I'm a highway star, yeah 』

リッチー・ブラックモアのギターとジョン・ロードのオルガンが
ユニゾンでリフを刻む。
イアン・ギランがシャウトする。


ボクはマルに目配せして、「ハイウエィ・スター」をジョン・ロードのオルガン・ソロが始まる前にフェイドアウトするように要求した。
マルはiPodのボリュームを徐々に絞っていった。
ボクは次の曲をフェイドインで重ねていった。

レッド・ツェッペリン「天国の階段」をギター・ソロの部分から始めた。
iPadのボリュームをマックスにした。

ジミー・ペイジのギターソロは曲をグイグイと引っぱっていく。
音はうねり螺旋を駆け上がっていった。
風が砂塵を巻き上げた。
「天国の階段」第3部……激しいパートが始まった。

ジミー・ページの切れ味鋭いギター・リフ。
ボンゾの…スネアとバスドラの革がいっちゃいそうな連打。
ジョン・ポール・ジョーンズの独特のベース・ランニング。
ロバート・プラントはハイ・ピッチでシャウトした。

『And as we wind on down the road 
 Our shadows taller than our soul
 There walks a lady we all know 
 Who shines white light and wants to show
 How everything still turns to gold
 And if you listen very hard
 The tune will come to you at last
 When all is one and one is all
 To be a rock and not to roll.

 And she's buying the stairway to heaven 』


すると。
マルは右前脚を舐め次いで顔をなでた。
顔をなでながら口の端を曲げニヤリとマルが笑ったのをボクは見逃さなかった。
マルはなにかをしかけてくるつもりだ……。

『 And she's buying the stairway to heaven 』
ロバート・プラントの独唱の余韻が終わる前にマルは次の曲をかけてきた。
しかもいきなりの大音量だ。

マルは、
三波春夫「俵星玄蕃」を……
「俵星玄蕃」の浪曲のパートを大音量でぶち込んできた。


『時に元禄十五年十月二十四日、
 江戸の夜風をふるわせて、響くは山鹿流儀の陣太鼓、
 しかも一打ち二打ち三流れ、思わずハッと立ち上がり、
 耳を澄ませて太鼓を数え「おう、正しく赤穂浪士の討ち入りじゃ」
 助太刀するは此の時ぞ、もしやその中にひるま別れたあの蕎麦屋が
 居りはせぬか、名前はなんと今一度、逢うて別れが告げたいものと、
 けいこ襦袢に身を固めて、段小倉の袴、股立ち高く取り上げし、
 白綾たたんで後ろ鉢巻眼のつる如く、なげしにかかるは先祖伝来、
 俵弾正鍛えたる九尺の手槍を右の手に、切土を開けて一足表に出せば、
 天は幽暗地は凱々たる白雪を蹴立てて行く手は松坂町……』

『・・・・・・・・
 されども此処は此のままに、槍を納めて御引上げ下さるならば有り難し、
 かかる折りも一人の浪士が雪をけたてて
 サク、サク、サク、サク、サク、サクー、
 「先生」「おうッ、そば屋か」
 いや、いや、いや、いや、襟に書かれた名前こそ、
 まことは杉野の十兵次殿、わしが教えたあの極意、
 命惜しむな名おこそ惜しめ、立派な働き祈りますぞよ、
 さらばさらばと右左。赤穂浪士に邪魔する奴は何人たりとも
 通さんぞ、橋のたもとで石突き突いて、槍の玄蕃は仁王立ち……』


うおおおーッ。

ボクとマルは拳を突き上げ叫んだ。
それからボクの右手とマルの右前脚でハイタッチした。

歌が始まった。

『打てや響けや 山鹿の太鼓
 月も夜空に 冴え渡る
 夢と聞きつつ 両国の
 橋のたもとで 雪ふみしめた
 槍に玄葉の 涙が光る』


マルはボクを見てにっこり笑った。
声に出さなくてもマルが言いたいことは分かった。
『日本に生まれて良かったなあ……』

ボクはマルに言った。声にだして。
「さっ。もっと飲もうぜ!」

マルが大きな声で言った。
「よし。今度は広沢虎造しばりでDJ合戦をやろうぜ!」


外では雪が音もなく降り続けていた。



三波春夫 「俵星玄蕃」




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マコちゃん


反骨の人 マコト 66歳 


戦後ベビーブーマーには珍しく風のように漂う男
この男には一年中春風が吹いているのだろうか…
良くも悪くも…駘蕩たる性格でこの年までやってきた

風に揺れるコップから盛り上がったビールの泡
そんな泡のような男だ

しかしだ
マコトは自由気ままに育った泡男なのに骨が反っていた

不当な権力には屈しない 不当でなくても権力は気にくわない

納得出来ないことには従わない 納得しても…偉いヤツには従わない

一匹狼 群れない 寄り添わない でも人恋しくなる時だってある 

助けない 助けられない 連帯しない 連帯保証で痛い目をみた過去がある


身長:175cm 体重:75kg 筋肉質 握力左右ともに55kgw 垂直跳び:55cm 
職業:飲食店(焼き鳥屋)経営
嗜好:ショートピース/サッポロビール黒ラベル/サントリー角瓶
趣味:蕎麦打ち/ギター/○○○
尊敬する人:高倉健/ジョン・レノン
好きな映画:「居酒屋兆治」/「真夜中のカウボーイ」


* **


M市仲町商店街の裏側には居酒屋が集まる界隈「オリオン横丁」がある。

オリオン横丁の東端には地元民から「御稲荷さん」と呼ばれて親しまれている小さな神社がある。神主もいない小さな社(やしろ)だけの境内には赤い前掛けを首から下げた狐の石像が1つあった。

御稲荷さんの隣の土地に、赤い提灯を軒から下げた木とガラスの引き戸の小さな店があった。

『焼き鳥屋』という屋号の焼き鳥屋。
マコトの店だ。常連客はマコちゃんと呼ぶ。

店の名前もシンプルだがメニューもシンプルだ。
焼き鳥は2種(ねぎま、レバー)タレだけ。
飲み物は瓶ビール、ウイスキー、日本酒だけ。
銘柄は選べない。何がでるかはその日によって違う。
ウイスキーはストレート、日本酒は冬でも燗をつけない。
ビールもウイスキーも日本酒も瓶から注ぐだけ。
コップはビール会社のマークがはいったコップ1種類だけ。

たとえばこうだ。
ビールを飲み干した客が「マコちゃん日本酒」と言ったら
マコちゃんは無言で日本酒の瓶を傾けコップに注ぐ。
まだビールの泡が残ったままのコップに注ぐ。


* **


カウンター席8個だけの「焼き鳥屋」。

マコトはカウンターの内側に立ってビールを飲んでいた。
白髪のロングヘアは無造作にのばしただけ。
小さくて細い長方形型レンズの老眼鏡を鼻の上にのせていた。
青いデニムのGジャンにパンツ。
Gジャンの内側には白いTシャツ。
Tシャツの胸には『Let Me Be』と黒い文字でプリントされていた。
首にマフラーを巻いていた。赤黒縞模様のACミランのマフラーだ。
顔は……ひねくれ者・拗ね者のそれだった。
そして顔にはちょっと幼さが残っていた。
そりゃそうだ。
中学生のように怒り、笑い、驚き、叫んでる毎日なんだから。

居酒屋照明70%くらいの光量の薄暗い店内には
1960〜1970年代のロックが流れていた。

午後8時になっても客は5時の開店と同時に入ってきた常連の3人だけ。
3人ともマコトの幼馴染みで同級生だ。
ヨシオがカウンターの内側に向かって口を開いた。

「マコちゃんよお、言いたかないけどさ…」

「じゃあ言うな」

「いや言う」

「じゃあ聞かねえ」

「オレが代わりに聞いてやるか?」

「オサムが聞いてどうすんだよ」

「じゃオレが…」

「アキラおまえまで何言ってんだよ!」


* **


5日前の昼下がりのことだ。
狐の石像の前に男が3人。ヨシオ、オサム、アキラだ。
3人は仲町商店街の店主だ。八百屋、肉屋、金物屋。
ここも日本全国津々浦々の商店街同様、ご多分に漏れず不況に沈んでいた。

3人は時代の風向きを読むのが苦手だった。
「やっぱITってよお」
「イット?」
「うん。代名詞だな」
このくらい…苦手だった。


10年以上前から不景気風に乗ってやってきた貧乏神に取り憑かれたような
仲町商店街だった。
そんな商店街の客足が半年前から以前にもましてごっそりと減ったのは
この石の狐のせいだと3人はにらんでいた。

「これだよ、これ。この右手」

「この右手かよお」

「ちょうど半年前だ。マコちゃんが狐を改造したんだ」

「みろ。狐が右手を上にあげて指人形の狐をつくってやがる…ああややこしい」



元々この神社はマコトの亡くなった父親が勝手に建てたもので
氏神もいなければ縁起も由緒もなかった。
現在マコトが焼き鳥屋をやっている場所に昔は寿司屋があった。
寿司屋を営んでいた父親。
その父親のいなり寿司好きがこうじて建てた稲荷神社だ。
握りより、巻ものより、いなり寿司が旨かった妙な寿司屋だった。
改造前の石の狐は右手にいなり寿司を握っていた。


1年前のこと、この神社の一画が市の区画整理の割り当て地になった。
「権力の横暴だ」と反骨のマコトは怒った。
商店街の連中は慌てた。不況に喘ぐなか、市当局とは揉めたくなかった。
オリオン横町の連中は喜んだ。「退屈は悪だ」が口癖の連中だ。

マコトは区画整理反対のアジ・ビラを道行く人に配った。
ギターを弾いて『パワァ トゥ ザ ピーポッ』と大声で歌いながら。

ビラを持って「焼き鳥屋」に入店すると抽選でビール1本…と書いてあった。
もちろん当たりくじはない。反骨だが気前はよくない。
マコトは怒ってはいたが嬉しそうだった。
数年ぶりに反骨っぷりを発揮できることにゾクゾクしていた。


ヨシオが言った。
「こりゃ指人形の狐じゃねえんだ」

「えっ……」

「野球でよ。9回裏ツーアウト、あと1人打ち取りゃ勝ちだってときな。
 選手はどうする?」

「……」

「こうすんだろ…指で狐をこさえるようにして…人差し指と小指をたててよ。
 叫ぶだろ。『ツーアウッ!ツーアウッ!』って」

「うん。やるな」

「狐が野球すんのか?」

「するかよ!」

「マコちゃんが言うにはよ。横暴な市を追い詰める願掛けなんだと。
 ツーアウトまで追い詰めるんだってさ」

「スリーアウトじゃなきゃ勝てねえだろ…」

「『選挙の達磨だって勝つまでは片眼しか墨いれねえだろ!』だってさ」


* **

10ヶ月前のことだ。
4人はオリオン横丁の喫茶店「みよし」に集まっていた。
幼馴染みの小春がやっている喫茶店だ。
4人は昼間からビールを飲んでテレビで高校野球を観ていた。
夏の県予選3回線。パン屋の息子がキャッチャーで出ていた。
1点差リードで勝っていた9回裏。
ツーアウトを取るとパン屋の息子は立ち上がり右手の指2本を突き上げ叫んだ。
『ツーアウッ!ツーアウッ!』

マコトがビールを1口飲んで言った。
「ほら見ろ。キャッチャーが右手の指を狐みたいにして叫んでんだろ。
 いいよなあ。この瞬間が1番シビれるんだ。
 もうちょっとで勝利に手が届くとこまできたこの瞬間がよ。
 勝ちゃあ試合は終わる。けどあと1歩のこの瞬間は永遠だ…」

試合は逆転サヨナラ負けで終わった。

マコトはコップに残ったビールを飲み干すと言った。
「そいつがいくつだろうがさ、たとえ18歳だってさ。
 それぞれの年のゲームはいつか終わるんだ…」

マコトは立ち上がって出ていこうとした。
ヨシオが叫んだ。
「マコちゃん金置いてけよ!」

「つべこべ言ってねえでさっさと金払って…御稲荷さんに来い」

「どうして…」

「何言ってんだ。キャッチボールするにきまってんだろ」


* **


カウンターの内側のマコトにヨシオが言った。

「いいや。今夜はどうしてもマコちゃんに聞いてもらう。
 いや。マコちゃんに何としても料簡してもらわなきゃいけねえんだ」

「うん?」

「うんじゃねえよ。マコちゃんが石の狐をつくりかえてからなんだ。
 狐が右手の指で狐をつくってからなんだ。
 それから商店街の客足がさっぱりなんだよ」

「ずっと前からさっぱりだったじゃねえか」

「狐の呪いだってみんな言ってるよ。
 あのツーアウト指の狐のせいで商店街の客足が減ったんだって」

「なんだと。石の狐が商店街を呪うかよ。
 あれはな、横暴な行政の市を追い詰めるために…」

「商店街が追い詰められちまったんだよ!」

「仲町商店街はもうツーアウトだよ!」

「あと1人…あと1人…」

「アキラ、おまえは黙ってろ!」

「なあマコちゃんよお。
 市よりさきに仲町商店街を追い詰めてどうすんだよって」

「もう少しだな」

「何がもう少しなんだよ」

「いいか。御稲荷さんと市役所の間には仲町商店街があるんだよ。
 あの指狐パワーでグワァッとさ…
 商店街を追い詰めたら、今度はその先にある市役所だ!」

「おいおい縁起でもねえ」

「ぎゃはは。そんな縁起があるわけねえ」

「なあ。そんなこと言わねえでよマコちゃん…元の狐に戻してくれよお」

「それは出来ねえ」

「どうして?」

「ロックは愛と反骨だ。ラブ アンド 反体制だ。
 市役所の連中には愛がねえ。オレはとことん闘う」

「なあマコちゃんよお。年寄り3人がよ、下げたくもねえ頭ぁ下げてるんだ。
 そこを曲げてよお…」

「ぎゃはは。
 あのな。オレらは同級生だ、同い年だ。
 おまえらが年寄りの頭を下げるなら、オレは年寄りの胸を張る。
 堂々と闘う。
 ぎゃはは。楽しいぞお。いいからおまえらは黙って見物していろ」

「そんなあ。商店街はどうすんだよお!」

「大丈夫だ、心配するな。
 指狐パワーを微調整してな…商店街を迂回するようにするからよ」

「えっ。そんなことできんのか?」

マコトは口を大きく開けて笑ってから言った。
「できねえよ!」

「そんなあ!」


* **


1ヶ月前のこと。

マコトは喫茶店「みよし」のカウンターでスポーツ新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた
店番をしていたのは小春の孫娘の小雪だ。
店内にはマコトと小雪の2人。小雪は生意気盛りの高校1年生だ。

小雪がマコトに聞いた。
「ねえ。どうしてマコちゃんは区画整理に反対なの?」

「いい質問だ。
 いいか。区画整理の説明会のとき市役所の連中は計画書を配って言ったんだ。
 30項目あった。区画整理をすると30項目の良いことだらけだ」

「だったらイイじゃん」

「よく考えろ。30個も良いことがあって、悪いことが1個もないなんてよ。
 こんな胡散臭いことがあるか?
 偉いヤツらがもってくるきれい事と甘い話しには裏があるんだよ」

「そんなもんなの?」

「そんなもんなんだ」
 いいか。例えばだ。人間で考えてみろ。
 どんな人間だってな素敵もあれば駄目もあるんだ。
 駄目が1個もない人間なんて信用できるか」

「マコちゃんはどうなの?」

「まあオレは…駄目が4割、素敵が6割だな。
 人間はな、これくらいが良い塩梅なんだ」

「6割なんてないでしょ!」

「バカヤロー。遠慮して6割って言ってんだ。
 それにな。
 オレはあの通りの景色が好きなんだ……」

「うん。わたしも好きだなあ。あの御稲荷さん」

「ところで小雪。
 音頭をつくるんだけどさ。
 音頭っていったらリズムはやっぱレゲエか?」


* **


翌日マコトは「御稲荷さん」でギター1本のライブを始めた。
テレキャスターと小さなアンプにスタンドマイク。
「区画整理反対集会」のライブだ。
白い雲が浮かぶ青空が気持ちの良い午後3時だった。

マコトは青のデニムの上下に首にはACミランのマフラー。
いつもと変わらぬ服装だった。
ただし。老眼鏡は黒いサングラスに変わっていた。
1960年代にボブディランが愛用したレイバン「ウェイファーラー」だ。

マコトは自慢のサングラスをして口の左端を曲げニヤリと笑った。
無言のままギターでイントロを弾き始めた。
1曲目はバッファロー・スプリングフィールドの「ミスター・ソウル」。
マコトはニール・ヤングのように身体を小刻みに揺らしギターを弾き歌った。


ラーメン屋の従業員のような「反骨」と書かれた…白いTシャツをきた4人の女性が観衆にビラを配っていた。
幼なじみの小春。小春の娘で出戻りの小夏。小夏の娘の小雪。
椅子に座ったままビラを配っていたのは小春の母親の小梅だった。

反対集会のライブなのにMCもなしに演奏だけが1時間以上続いた。

マコちゃんが話し始めた。

「次が最後の曲なんだ。今日のためにオレがつくった曲だ。
 若い連中は知らないかもしれないけどさ…
 昔さ歌謡曲にさ、ブルースっていうジャンルがあったんだ。
 それでさ。「反骨ブルース」ってのをつくったんだけどさ…
 歌は暗いより明るいほうがいいしさ…。
 みんなで歌えるほうがいいからってさ音頭にしちゃったんだ。
 『反骨音頭』だ!
 歌謡曲とロックの炊き込みのような曲になったぜ!
 それじゃさ…『反骨音頭』コーラス&ダンスの4人を紹介するぜ。
 小雪、小夏、小春、小梅…
 『それそれガールズ』だあ!」

Macと接続したスピーカーから打ち込みで作った演奏のイントロが流れてきた。
それそれガールズ4人がマイクを持って歌い始めた。
『あぁそれそれ あちょいとそれそれ それそれそれそれぇ』
 
マコちゃんがギターをかき鳴らし歌い出した。

『長いものには巻かれない それ  
 多数決には屈しない それ  
 きれい事には騙されねえ それ  
 それそれそれそれ  
 反骨音頭を歌いましょう 反骨音頭で踊りましょう  
 
 偉いヤツには屈しない それ  
 ◯◯のヤツらにゃ捕まらねえ それ
 追い詰められても諦めねえ それ
 それそれそれそれ
 反骨音頭を歌いましょう 反骨音頭で踊りましょう
 
 背中を丸めて歩かない 反れ  
 猫背の野良にも注意する 反れ  
 だけど犬より猫が好き それ  
 それそれそれそれ  
 反骨音頭を歌いましょう 反骨音頭で踊りましょう

 重い荷物はしんどいぜ それ
 昇り坂はきついけど それ
 坂の上には雲がある それ
 それそれそれそれ
 反骨音頭を歌いましょう 反骨音頭で踊りましょう

 坂の上には雲がある それ
 坂の上には雲がある それ
 それそれそれそれ
 反骨音頭を歌いましょう 反骨音頭で踊りましょう
 …反骨音頭でぶっとばすぅ!』



意外にも往来を歩くたくさんの連中が足を止めてマコちゃんの歌を聞いていた。
最後はあちこちで喝采がわきあがった。
少年も少女も。男も女も。おっさんもおばさんも。爺さんも婆さんも。
おおよそ100人くらいだろうか。
マコちゃんとそれそれガールズにあおられ全員が声を揃えて歌っていた。
「坂の上には雲がある それっ! 坂の上には雲がある それっ!」 


歌が終わり拍手が沸きおこるとマコちゃんが大きな声で言った。
「ゼッテー負けねえぞおッ!」
マコちゃんが右手を天に突き上げると、そこにいた全員が右手を突き上げた。
全員が右手の人差し指と中指で「ピース・サイン」をつくった。


100人のピース・サインの波が揺れるなかで…
マコちゃんの右手は人差し指と小指をたてていた。

「ウオーッ! ツーアウッ!ツーアウッ!」



* **


監督のカナイヨシスケはMacのFinal Cut Proで映像を編集していた。

「ツーアウッ!ツーアウッ!」

最後のシーンが終了しそのまま静止画像となった。
その静止画像にエンドロールのクレジット文字をレイヤーで重ねレンダリングした。

エンドロールの次に1枚のスチル写真をつないだ。
これがファイナル・カットだった。



スチル写真には4人が写っていた。
石の狐の左側にヨシオとオサム、右側にマコトとアキラ。
みんな大きく口を開けて笑っていた。
みんな右手で指人形の狐をつくっていた。

白い狐は右手に…稲荷寿司を握っていた。



Buffalo Springfield 「Mr. Soul」




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ROLL UP ONDO Vol.2


こんなことで…困ったときはありませんか…?


・ やる気がわかない
出がけに「やる気」を家に忘れて会社にきてしまった。

・ 勇気がわかない
ロッカールームに「勇気」を忘れて試合にでてしまった。

・ アイデアがわかない
ああ。これはいつものことなんだ……。

・ 「ワクワク」がわかない
 さあ歌おう。さあ旅にでよう。



『湧くんだよ 天然資源がボコボコと ほれ  
 沸くんだよ 良い湯加減に温泉が ほれ  
 わくんだよ 楽しいお話し次々と ほれ  
 犬が庭で吠えている ここほれここほれ  
 掘れば わくわく 世界のふむふむ  
 掘れば わくわく 世界のほぅほぅ  
 掘れば わくわく 世界のわくわく

 わくんだよ やる気と勇気がポンポンと ほれ
 わくんだよ パルスとアイデアぴーひゃらら ほれ
 わくんだよ トレヴィの泉でアモーレ ほれ
 猫が柱で爪をとぐ ここほれここほれ
 掘れば わくわく 世界のふむふむ  
 掘れば わくわく 世界のほぅほぅ  
 掘れば わくわく 世界のわくわく』

(1970年代から岩手県M市周辺で歌い継がれてきた「わくわく音頭」より)
「わくわく音頭」
作詞・作曲:ほれ仙人 歌・演奏:ほれほれボーイズ


* **


文学部心理学科『特別講義:わくわく概論』
○月○日 15時 第8講義室


イーハトブ田五三九 「ハンド・クラッピング音頭」は23:36から始まります




* **


盛岡市肴町 古くから続く商店街

「わくわく音頭」を口ずさみながらそぞろ歩く



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古い写真館


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看板の文字は「釜部南」
南部鉄器の起源は南部釜(茶道用)から始まったとのこと





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