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Soul Man

盛岡のR&B好きのあいだではけっこう有名な彼。
アメリカからやってきたソウル・マン。
白髪・白髭に黒眼鏡、上下白のスーツできめた・・レジェンド・オブ・ソウル。

毎週金曜夜の路上ライブ。
アメリカ出身の彼にしては珍しく今夜歌っていたのは日本のソウル・ナンバーだった。
それでも間奏のときには。
いつものように、オーティス・レディングの口調を真似てこう叫んでいた。

"We all love each other, right? ... Let me hear you say YEAH!"
(「愛しあってるかーい?」)

路上で立ち止まって聴いていた30人が一斉に叫んだ。「イエーイ!」


『だれかが僕の邪魔をしても 
 きっと君はいい事おもいつく
 何でもない事で僕を笑わせる
 君が僕を知ってる・・・』


R0014315 (1) のコピー.jpg


RCサクセション 「君が僕を知ってる」



"サンキュー・・ベイベー・・・
サンキュー・・モリオカアアア! ドーモ アリガト 感謝しまーす!"

"もう最後の曲になっちゃいました!なっちゃいましたぁぁぁ!
もう1発やるぜえー!
イカしたロックンロールはセツナくてアマいバラードになるんだぜっていうこの曲を!
この曲をみんなにッ!
ザ・クロマニヨンズのこの曲を!「雷雨決行」”

キーボードのイントロが始まった。
それまで手を叩き、靴でアスファルトの道を踏み鳴らしていた連中が静まった。


『合言葉は雷雨決行 
 嵐に船を出す
 引き返す訳にゃいかないぜ 
 夢がオレたちを見張ってる・・』


斉藤和義 「雷雨決行」([コピーライト]ザ・クロマニヨンズ)



最後の曲を歌い終わるとソウル・マンは観衆の拍手にこたえて手を振り、お辞儀をした。
お辞儀から姿勢を戻すとソウル・マンは動かなくなった。
微塵も。
1mmも。

彼はミュージシャンからパフォーマーに戻った。
彼は同じ衣装と扮装のまま動かない。固まった。
作り物の彫像のように固まり、動かないのが
これが・・彼のパフォーマンスなんだ。

彼を叩くと"コンコン"と音がするようだった。


【蛇足】

暴風雨の朝だった。空には雷が断続的に光り空気と地表を震わせていた。
波止場に建つ宿舎には乗組員が全員待機していた。

こんな嵐の海へ出航するわけがない。
天候の激しさとは対照的に乗組員は弛緩していた。
ある者は煙草を吸いながら窓の外の揺れる波を観ていた。
ある者はラジオの天気予報を聞きながらビールを飲んでいた。
トランプに興じるグループもあった。

乗組員A「こんな雷雨なのに船長は出航するって言ったのか?」
B「・・ああ」
A「本当か?」
B「本当さ・・この耳で聞いたんだ」
A「無茶だぜそりゃあ。この嵐の海に船を出して・・どう船を操るっていうんだ?できっこない!」
B「・・・・・」
A「どうして?どうしてそんなことするんだ?なあ、船長は何て言ってるんだ?」
B「オレは・・燃えるんだって・・」
A「・・うん?なんだって?」
B「荒れ狂った波の上で船をねじ伏せるのが船乗りの生き甲斐なんだって言ってさ。
 " 燃えるなあ ”って言って目ぇギラギラさせて海を睨んでるんだ」

『合い言葉は雷雨決行 嵐に舟を出す』宿舎の廊下に船長の歌声が響いた。

A「そんな合い言葉があるかよ?それじゃ命がいくつあったってよ・・」
B「アレは船乗り達の合い言葉なんかじゃねえ。
 あれは・・船長の・・呪文だ」
C「去年の嵐の日には、彼女と喧嘩したあとで・・
 " ああ、むしゃくしゃする!"って言って雷雨の海に船を・・」
A・B「そんなあ!」

廊下から聞こえる船長の歌声が大きくなった。
『合い言葉は むかつく! 嵐に舟を出す』

A・B・C「・・・・・」



ボクが原稿を書いていたMBAのディスプレイをマルが覗きこんで言った。

「どうしてさあ、こんなにイイ曲からこんなくだらないコント劇を思いつくかなあ、オマエは!」



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