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Mr. X said " Absolutely "

友人のMさん
オフ・ビートな女性
生業はフリーランス・ライター

彼女がお気に入りの・・新宿ゴールデン街の小さな酒場「G」
5席のカウンターと小さなテーブル席の酒場「G」

Gに集う客達は・・常連歴30~40年以上という強者ぞろい

集まる客は・・こんなかんじだ
詩人・出版人・演劇人・コピーライター…「文字関連」
画家・グラフィックデザイナー・装丁家…「絵心アート関連」
サラリーマン・自営業・フリーランス・無職・年金受給者・ゲイ・ストレート・学者・無学者
音楽家・音痴…「関連なし関連」
正体不明…「?関連」

これらの客が順列組み合わせで出入りする酒場

多くの常連客が60~70歳代で中には80歳代後半の方もいる
40歳代は最年少の部類という年齢構成のGのカウンター

30代半ば手前・・どうも女性の年齢表現には気をつかう
要するに妙なる齢でGに出入りを始めたMさんは
周囲の常連客からすれば、殆ど娘のような存在


カウンターの常連客は酒も好きだが会話も好きだ
いや、話すのが好きだが聞くのは・・・・・

5席のカウンターで隣り合った客同士で話してる
お互いが話してるが、それは時に対話ではない
交互モノローグ(独白)状態になる

モノローグ;monolog 単独のログ
そう、1人「 Log in 」状態の5人がカウンターに並んで
ビールをゴクゴク、ウイスキーをグビリ、焼酎をプッハーしながら
1人「 Log in 」の 5人がモノローグを繰り広げる
中には何を言ってるか分からない方だっている

常連客の多くは、何かを創作したり発信する仕事の方が多い

それなのに・・彼らは酒場でも・・まだ発信・発言したいのだ
出力好きのオッサン達が集う店なんだ


数年前、この酒場に1人でふらりと現れたMさん
ほどなくMさんは酒場Gに足繁く通うようになった
つわもの常連客の仲間入りしたMさん
そうこうするうち・・ある事情で
週に1度は彼女が代理ママをやることになっていた

客としてのMさんを気に入っていた常連客が週に1度のMママ目当てに集まり
毎週水曜日の酒場は賑わっているらしい


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ボクは前職まで東京を訪ねることが多かった
30代前半から、東京に行くたびGに顔をだしていたので
常連のオッサン達にカウンターでよく揉まれていた
Gでは若造の部類のボクにしては健闘していた・・と思う
オフ・ビート(風変わり)な常連客が繰り広げる
オフ・ビート(非日常)な夜
オン・ビートなボクにしては健闘したほうだ、ときには無茶もあったが


そしてGでは、ボクとMさんはクロスしていない
この数年間ボクはGに顔を出していなかったからだ


ボクが気に入ったMさんから聞いた話

常連歴30年以上・・つまり30年以上の飲み仲間の男達がカウンターに3人
60歳をゆうに超えた人生のベテラン3人
水曜日カウンターへの出場はほぼスタメンな3人

2人は話好きだが、1人無口な、いや殆ど無言で酒を飲む方がいるらしい

つまりこうだ・・1人「 Log in 」状態の2人のオッサンは対話なのか独白なのか区別のつかない話を
展開している
その2人の横で、「無言サイト」に1人「 Log in 」状態で飲み続ける方


無口な紳士を仮にX氏としよう
出版社勤務
辞書・辞典関連の方
飲み仲間の愛称の由来に文法上の不備があるからと、断固本名で呼ぶ方

この方が無口とは・・無口も雄弁に感じるのは現場にいないボクだけか?

周囲は語る・・X氏は無言
周囲は喧騒・・X氏は無音

人の話を聞かず自説を展開する2人
相手の話の矛先をひょいとやり過ごし、自分の話の鼻先を突っ込む2人
相手の話に蓋を被せて、自分の話の蓋を開ける2人

混沌な2人と・・秩序なX氏
疾風怒濤な2人と・・平穏なX氏

「夏草やつわもどもはまだ夢をみる」な2人と・・
「しずけさや岩に染み入る音も無し」なX氏

勝手な自説を展開はするが・・カウンターに無言で佇むX氏が気になる2人
X氏の見解が気になるらしい

なにしろ仕事が辞書・辞典だ・・
友人の愛称の由来を文法に照らし合わせて検証する方だ
自説を評価してもらうにはうってつけの方だ

例えば・・こうだ
2人があるコトについて話していた
さんざん勝手なことを話していても・・
仲違いせず1つ処に30年以上通い続けた同士だ・・
最終的には共同作業で結論を導きだすらしい
すると・・今度は、その導き出した結論が気になる2人
「この結論でいいのか?」
2人は、それまで無言飲酒中だったX氏に意見を求める

そのとき・・座は数秒間数デシベル静かになるらしい

X氏がその結論に賛同を表明するときは・・たった1つの単語を発するだけ

「無論」

それを聞いた、還暦をゆうに超えたオッサン2人は
我が意を得たりと嬉しくなり、少しはしゃぎ
さらに大きな声で対話を再開するらしい


そんなX氏も好みの話には複数単語の文章で反応するらしい

X氏は縄文好き・・そう、Mさんが推察した件

一般に目にする自生の植物・野草には帰化種が多いのだそうだ
元々は日本のものではない外来種・・植物の外来種を帰化種というらしい
タンポポなど普段目にする草花にも帰化種はとても多いのとのことだ

ある植物の美しさ・可憐さについてMさんがX氏に質問した
彼の答えはこうだった

「アレは良いですね・・きっと御先祖様も愛でたに違いありません」

御先祖様も愛でたとは・・その植物は帰化種ではないとの示唆
Mさんは察知した・・御先祖様とは、縄文人のことだな・・
Mさん自身が縄文好きだからこそ察知したのだ

それからしばらく経ってからのことだ
MさんはX氏に話しかけた

「今度わたし取材で青森の三内丸山遺跡に行くんですけど。
 Xさんは行ったことはありますか?」

「無論」


相手の話に蓋を被せて、自分の話の蓋を開ける方々
相手の意見の中に自説を溶かして混沌な煮込みを作る方々
しかし、相手の話を聞いてないようでいて、意見を求められればキチンと答える方々
そして、相手の意見を全否定したり、完膚無きまでやりこめない方々
なにより、意見が食い違っても笑顔のまま・・意見の相違を楽しんでる方々

混沌の中にリスペクトがある

X氏は感じとっているのだろう、喧噪のなかに漂うリスペクトを

X氏は今夜も喧騒に耳を傾け、無言で酒杯を傾ける・・のだろう



Neil Young 「Heart of Gold」



【蛇足】

ジム・ジャームッシュが手持ちカメラを持ち込んで
モノクロフィルムで酒場「G」の常連たちの生態を撮影すれば・・
オフ・ビートな映画ができるのにと思ってるのはボクだけなんだろうか?



ミルクを飲み終わったマルがボクに言った

「オマエはいつだって・・無論じゃないか・・
 論理がない、論旨は支離滅裂、すぐに架空へ入り込む・・」

「無論はそういう意味じゃない。そういう・・オマエには論理が・・?」

'80~'90年代に柄谷行人、蓮實重彦に影響を受けたというマルは言った

「オレは批評精神をもった・・ポスト・モダンな猫だから」

「は・・?」

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