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Sky Handler

7月 暑い日の午後のことだ
ボクは町の約1/3を見下ろせる丘の上にいた
ボクの脇には1人の男が立っていた

"この町のエンジン"を操作している三毛猫から紹介された男だ
(Ref; http://c-boys.blog.so-net.ne.jp/2013-04-26



「いいかオマエは・・空を見ていろ」

そう言うと男は、鞄から陶器の招き猫を取り出した
招き猫の頭を男が撫でた

「ほら・・・」

空の雲が流れていった

「見えたか?」

「ん・・」

「じゃ、もう1度。今度ははっきりと分かるように、さっ、見ていろ」

男が招き猫の頭を撫でると・・
雲が南東から北西へ移動し地平線に達した・・

「今度はこうだ・・これなら分かるだろ?」
そう言うと、男の指は招き猫の頭を移動した

「あっ・・!」

雲が西から東へ横移動した・・違う、空全体が西から東へ移動した
スクリーン上の映像が撮影カメラの横移動で動いたように

「分かったろ、空を動かしたんだ。オレは・・空使いなんだ」


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コレは幻覚ではない
神話からこぼれ落ちた幻想でもない
寓話が語る非現実なエピソードではない
手にすることができない真理でもない
手でつかみ引っ張るとキリキリと音がする、そんな現実だ
乱暴に扱うと指に怪我を負う、そんな現実だ
触ってみると冷やりと硬い感触のある現実だ、そう招き猫の頭部の現実だ

ボクの眼前に展開した空の移動は・・現実だった
15:00 夢をみるには早すぎる時間だし、何よりボクは眠っていなかった

男は説明を始めた・・淡々と

招き猫の頭部がジャイロ・コントローラーなのさ
前頭部~後頭部にかけて指でなぞると、ボクの頭上で半球状の空は南北に移動した
左側頭部~右側頭部にかけて指でなぞると空は東西に移動した
招き猫の頭部を指を自在に移動させると、空は自在に思うがままに移動した

招き猫の右前足をスロットマシーンのレバーのように、顔の脇から腰の位置へ下げると空が低くなった
ボクは空が落ちてくるのかと不安になった

「杞憂だ!」男は言った

右前足を顔の脇に戻し、さらに肩関節より後方に移動させると空はとても高くなった

「天高く馬肥ゆる秋」ボクが言うと、男はとがめるように咳払いした・・


気分を落ち着けてボクは・・言った

「あなたが伝説の空使いの一族なんだね・・」

「伝説じゃない、現実だ。オレの名前は鈴木一郎、ほら平凡な現実だろ?」

「イチローは平凡じゃない・・スペシャルだ」

「・・・」

「どうしてあなたたち一族が空を操ってるんだ?」

「気象は複雑だ、そして時に困ったことも起きる・・だろ?」

「大雨、台風、竜巻、大雪・・」

「そうだな。
 いいか・・地表80kmまでの重力に捉えられた気体が大気なんだ。
 大気は・・太陽からの熱エネルギー、海洋・河川の水蒸気、緯度や地表の
 形状から影響を受ける。さらには地球の自転・公転による季節の影響。
 そうこうして大気の気温と気圧の変から・・複雑な気象が生まれる・・」

「何が何だかよく分からないな・・」

「そう、物事は複雑にすると本質がぼやけるんだ、気象も哲学も・・恋愛もだ」

「・・・・・」

「そこでだ。混沌と複雑系がないまぜになった気象の機嫌をなだめるのが、
 オレたち一族の仕事だ」

「機嫌をなだめる?」

「あまりに混沌で複雑だと気象の予測が困難になるだろ?
 気象が機嫌をそこねて天気が荒れ狂ったらどうする?」

「それで・・気象の機嫌をなだめる」

「そう、気象の混沌と複雑を少しだけ整理するんだ。
 ほんの少し空を移動させることでね。
 ほんの少しさ、だから世間の連中は誰もオレ達の仕事に気づかない」

「混沌で複雑な気象が暴れないようになだめシンプルにする修飾詞のような・・存在」

「そう、幾重にも紡いだ重奏からソロパートを抽出するように・・」

「重層的で主題を見失った料理に輪郭を与えるスパイスのような・・」

「そうだな・・」

「マティーニに浮かぶピメント入りオリーブのように・・」

「まさか!
 そんなに自己主張はしないさ。空使いがでしゃばったら気象が大変なことになる」

「それじゃ・・ソース焼きそばの・・」

「・・紅生姜だな」



「どうして、そんなに難しい仕事を続けているんだ?」

「ロマンが好きなんだ・・」

「・・・・・」

「この招き猫ジャイロ・コントローラでオレ達は大空を航海してるんだ!」


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Pirates of Caribbean,Main Theme



【蛇足】

ソファで眠っていたボクの腕をマルが舐めるので目を開けると

マルがそこに立っていた
胸を反らせ、腰を落とし、まるでスフィンクスのようなポーズだ
スフィンクスと違うのは・・
右前足を挙げ顔の脇に固定していたことだ

ボクはマルの頭をおそるそる撫でてみたが、空は変化しなかった

ふと部屋の時計をみると、液晶パネルの表示は・・23:30

エッ? 
外は日盛りの午後のような明るさで・・空は青かった

どうしたんだ・・?

振り返ると・・

マルが右前足を前後に・・グルグル回していた


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