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SIMAUMA

7月の日曜日の朝だった
リビングのソファにシマウマが座っていた
床に置いた鞄には、"たくさんのアフリカ"が詰まっていた



05:30 朝食を催促するマルに起こされ一緒にリビングに入った

マルがつぶやいた 
「やれやれ、今度はシマウマか・・・」


シマウマは40代半ばの男だった
短い黒い髪と筋肉質な身体 ランで鍛え上げられた身体だ
Dolce & Gabbanaの黒いサングラス
上下が黒の細身のスーツに、白のワイシャツと黒のタイ
モッズ・スーツを着たポール・ウェラーのようだった

シマウマをみていると違和感を感じる

マルがロールカーテンを上げ部屋の東から陽射しを入れると
違和感の正体が明らかになった
不連続のクロマキーのようなシマウマ
背景と融合せず浮き出たシマウマ

「君は中年男の見かけだけどシマウマなんだね・・」
「白黒だから?」
「そう」
「縞模様が見えるかい?」
「いや見えない。それに白黒縞模様の中年男は極めて稀だ」
「じゃあ・・・」
「君全体が白黒に見えるんだ。君だけがモノクロ写真のような色なんだ」
「・・・・・」
「本来は白黒縞模様のシマウマが、モノクロームな中年男になって現れたんだね」

シマウマは身体も身につけた着衣もモノクロームだった
白黒モノクロなシマウマが周囲のカラーと融合できなくて、不連続性な存在になっていた

「いいかい、1つ訂正しておくよ。
 シマウマの白と黒は白色カラーと黒色カラーであって
 白黒モノクロではない。ほら・・?」
ポケットからだして咥えた電子煙草を吸い煙を吐き出すと・・
それは"白色"の煙じゃなく、"白黒モノクロ"の煙だった


「じゃあなぜ白黒カラーの君が、白黒モノクロで現れたんだ・・?」
「僕はモノクロな存在じゃない、疑似モノクロな存在なんだ」
「・・・・?」

「僕に欠けてるのは"色"じゃないんだ、"彩度"なんだ」

「彩度が欠けた疑似モノクロな存在・・・?」

「君がカラー写真のファイルを"フォトショップ"で開いたとしよう。
 この写真を擬似的に白黒モノクロ写真にするにはどうする?」
「ん・・・?」
「彩度のスライダーを極小の左端まで移動させるだろ。
 色が失われなくても彩度が失われれば疑似モノクロームになる、だね?」

そう言うと、シマウマは床に置かれた鞄をボクとマルへ向け移動させた


キャンバス生地のとても大きな鞄
大きな子供でも隠れんぼができるくらい
小さな大人が隠遁できるくらい

「開けてみて・・」
ボクは鞄のジッパーを動かし開けてみた
「エッ・・」
周囲の空気が揺れた・・気がした
周囲の空気が華やいだ・・気がした
驚き・・あわてて鞄のジッパーを閉めた

「何が入っていた?」
「・・・たくさんのアフリカ・・だろ?」
「そうだよ。よかった、君なら理解できると思ってココに来たんだ」

鞄の中に入ってたのは、たくさんの色の気体だった
赤・緑・青・黄色・紫・橙…etc.

「"アフリカ色"の大気なんだね?」
「・・の、エッセンスのようなものだ」
「バニラ・エッセンスのような、エッセンス?」
「そう、ほんの少量で全貌を変えてしまうようなエッセンスだよ」

「運んでくるのに3ヶ月の時間が必要だった・・
 当然だが、時間の経過につれ色の彩度はどんどん落ちてくる」
野菜や魚の鮮度のコトのように彩度について説明したシマウマ

運搬過程で、"彩度計"で確認しつつ、僕の彩度を"アフリカ色"に加えながら運んできた
「3ヶ月も僕の彩度を抜き続けたら・・・」
「君は擬似モノクロな存在になってしまったんだ!」
「You've got it !」
「だから、鞄の中のアフリカ色は、君の彩度をつぎ足しつぎ足し作った
 うなぎ蒲焼のタレのように濃厚な・・」
「違う、濃淡じゃない彩度だ。鞄の中に入っているのは・・
 彩度を微細に調節した"アフリカ色"なんだ。
 それは・・原初の地上の色彩なんだ・・」


話し終えたシマウマにマルが聞いた
「何か飲まないか?麦茶なら冷蔵庫にあるけど」
「もっとカラフルなものが飲みたい!」
マルは小声で"ほらね"と言って右前足でボクをつついて、笑った

彩度豊かなオレンジジュースを飲んだ、擬似モノクロなシマウマは玄関に向かった
「帰るのか?」
「僕の役目は終了したからね」
「1週間後に戻ってくるまで鞄は開けちゃダメなんだね?」
「・・・何のことだ?」
「いや、いいんだ・・」

R0010284@.jpg


リビングに戻ると・・
マルは冷蔵庫から取り出した野菜を床に置いた白い皿の上に並べていた

トマト・胡瓜・茄子・ピーマン・レモン・パプリカ

「ほら、鞄を開けてみよう」
目を好奇心で輝かせたマルが言った

鞄を開けた・・

「うわっ・・」
「ウワッ・・」

野菜の色が・・赤・緑・青・紫・黄色・橙が輝いた
鮮やかな彩度を・・"アフリカ色"を身にまとった野菜が色の光を放った

何よりも、マルの変化に驚かされた
顔の体毛は微細な階調まで見てとれた
グリーンの目とブルーベリー色の瞳が輝いていた・・


「オマエ、初めて観たんだろ?
 本当はこうなんだぜ、猫はさ」
それは、色彩がボクに送ったメッセージだ


それまで立っていたマルが前足を投げ出し、床に顎をつけ寝そべった
嬉しそうに目を細めて鮮やかな色彩を放つ野菜を観ていた

シマウマが言った言葉がよみがえった

「この鞄の中に詰まっている"アフリカ色"が
 君たちの"始まり"が・・
 アフリカで生まれた君たちの"母親"が・・観た色なんだ」

「ミトコンドリア・イブが・・観た"色"」


マルは歓喜の声をもらした

「これが・・総天然色・・」

「カラーなんだな・・」


Peter Gabriel & Youssou N'Doure 「In Your Eyes」



【蛇足】

鞄を閉じると、野菜は元の色に戻った

マルが冷蔵庫から違う野菜を取り出し持って来た
「さ、今度はコレでやってみよう」

マルが皿の上に置いたのは、ジャガイモだった

「ほら、鞄を開けてみよう!」

「ジャガイモ・・?」


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