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言葉堂本舗

(有)言葉堂本舗でございます。

当店が扱っておりますのは、「言葉」でございます。

『世界は素敵な言葉にあふれてる』


当店が取り扱っております「言葉」は、

名言、きめ台詞、キャッチコピー
短歌、俳句に川柳、どどいつ
自由律詩に壁の落書き、便所の哲学
謳い文句、殺し文句、歌の文句にセロニアス・モンク


心はなやぐ言葉の数々。

『美辞に麗句にお世辞にヨイショ!』

貴方の気持ちをぐいっとアゲてみせましょう。


『羽を持たない心だって、空を飛ぶことができるんだ』

『そんなことができるの?』

『いいかいお嬢ちゃん。言葉使いのおじさんに出来ないことなんてないんだ』


さあさあ。心浮き立つ「言葉」の数々。

ここには禁句なんてものはありません。
『あしはフリーじゃき』(坂本竜馬)
「言論」と書いて「自由」と読みます。

ユーモアはあるが冷笑はありません。
ウイットはあるが皮肉はありません。


当店は、貴方にお似合いの「言葉」を探します。
貴方を励ます、貴方に寄り添う、そんな言葉を探します。
「言葉」のコンシェルジュです。

もしご希望でしたらオリジナル「言葉」の作成も承ります。


自分にフィットした言葉を呟くと……

元気が出ます。
勇気が湧きます。
アイデアが閃きます。
跳躍力が3%伸びます。
日の出が3/100秒早くなります。
風呂あがりに湯冷めしません。
ビールが美味しくなります。
ブラボー。



サテお立ち会い。
手前ここに取りいだしたるは素敵な「言葉」の数々。


この「言葉」、声に出してみてください。

『叱られて目をつぶる猫春隣』(久保田万太郎)

ほら。ふわりと春風が吹いて心が軽くなるでしょ。


この「言葉」、声に出してみてください。

『" Prisoner on the road "
 Cyclist is addicted to riding.
 He is the man trapped by road.』(Rapha 広告コピー)

魔の山 モンテ・ゾンコランを喘ぎながら登る、
ジロ・デ・イタリアの選手たちの息づかいが聞こえる。彼らは「路に囚われし者」。
ほら。身体がちょっと熱くなるでしょ。


この「言葉」、声に出してみてください。

『空を超えてラララ星のかなた  ゆくぞアトムジェットの限り
 心やさしラララ科学の子 十万馬力だ鉄腕アトム』(谷川俊太郎)

身体に力がみなぎり、自然に動き出す。
「こら。校庭で飛んじゃだめだって!」



それでは…ここからは当店オリジナルの「言葉」を。

『すべての男は本末転倒と役立たずの先に存在する』

ほら。気持ちが軽くなったでしょ。
男ってのはね。そんなもんなんです。
それ以上でも以下でもない。うんうん。


それじゃ次。これは強烈!

『すべての女は慈悲と理不尽のないまぜでできている』

ほら。はなから、男は女に敵わいって分かって気分が楽になったでしょ。
優しくて不合理…勝てる相手じゃないんだって。うんうん。



* **


M市オリオン横丁で焼き鳥屋を営むマコト65歳バツイチ。時々ロック・ミュージシャン。
昼過ぎに起床するマコトがくつろぐのは、ここ喫茶店「みよし」だ。
この店の一人娘が小夏だ。
小夏は、生意気だが愛嬌のある18歳。
愛嬌は女の武器だと自覚しているしたたかな高校生だ。

マコトと小夏はよくここでコーヒーを飲みながら話した。
小夏の口調は馴れ馴れしいが…マコトが小夏を言い負かそうと挑む口調は大人げない。

2人に共通しているのは、本好きであること。
好みのジャンルは違うが2人はよく本の話で盛り上がった。
そして言葉遊びが好きだった。


マコトと小夏がこの喫茶店で会うと、「言葉合戦」で勝負した。
ルールはこうだ。
お題の単語を決め、その単語を含んだ語句や諺を交互に1個ずつ出す。
言葉が思いつかなくなったり、間違った語句を言ったら負けだ。
まあ。他愛のない遊びだ。しかし2人は真剣だった。
言葉好きのプライドがかかっていたからだ。

「マコちゃん…じゃね…お題は、“犬”」

「犬畜生」

「犬鷲」

「犬死に」

「マコちゃんさあ、どうしてそういう言葉ばっか出してくるかなあ…」

「前半戦はな、相手を挑発するんだよ」

「あのね。そういう勝負じゃないでしょ、コレは」

「勝負ってのはな、なんでもありなんだよ。
 なんだ…もう負けか?」

「ふん!じゃあ…犬芥子」

「なんだそりゃ!」

卓上には国語辞典が置いてある。
相手が疑義を申し出た場合はすぐに辞典で調べて判定する。

「チクショウー。ほんとにあるんだな…犬芥子め!」

「ほら。マコちゃんの番」

「じゃあな。イヌイット」

「ギャハハ!なにそれ。
 イヌイットのイヌは日本語の犬じゃないでしょ!」

「えっ。だって犬ぞりに乗ってるのテレビで見たぞ」

「犬ぞりに乗ってたってイヌイットのイヌは犬じゃない!」

「ブハハッ。まいったか?」

「負けたのはマコちゃんだって!」

「じゃあ、これはどうだ…犬もほろろ」

「ケンは犬じゃないって」

「いるだろ。愛想がなくて、ほろろな犬が」

「ギャハハ…ほろろな犬ってなにそれ」

「だからいるだろって」

「だめ。けんもほろろは無愛想な犬のことじゃない!」



* **


市内にある百貨店の催事場に「言葉堂本舗」というプロダクションがやって来た。

新聞の折り込みチラシをみるとシステムはこうだった。

1.カウンセラーがクライアントの話を聞く。
2.言葉ソムリエがカウンセリングの結果をもとに言葉を選ぶ。
 クライアントを励まし寄りそう「言葉」を選ぶ。
 オプションでコピーライターがオリジナルの言葉をつくる。
3.デザイナーが文字をデザインし言葉を印刷出力する。


マコトと小夏は自分の「言葉」を探すため会場に行った。

北海道物産展の隣に言葉堂本舗の男2人が立っていた。40代前半と後半にみえる。
年かさの方はヒューゴ・ボスの黒いスーツに黒縁眼鏡。彼が言葉堂本舗主人。
カウンセラーで言葉ソムリエでコピラライターだ。
もう1人はコムデギャルソンの白いTシャツに青いデニムを穿いた男。
彼が書家兼デザイナー。墨と筆で和紙に揮毫するし、アドビ・イラストレーターで文字をデザインもする。


百貨店を出ると2人は分かれた。
1週間後に「言葉」が宅配で送られてくる。
その日の17時、開店前の焼き鳥屋で落ち合うことになった。
そこでお互いの選んだ「言葉」を見せ合うことにした。



* **


焼き鳥屋に入ってきた小夏はカウターに座った。

「ここに来る前にね…M市公園に行ってきた。
 市営球場の1塁側スタンドの席に座って…缶コーヒーを飲んだんだ」

「・・・・・・」

「市内の高校生が練習試合してた。
 春にね。缶コーヒーを飲むにはあそこが1番なんだよね。
 春風がまだちょっと冷たいけど、冷たい缶コーヒーをえいやって飲んだ。
 なんたって春だもんね」

「・・・・・」

「野球部員たちの掛け声。
 ボールをキャッチするグローブの革の音。
 風の音。
 金属バットがボールを打つ音と缶コーヒーのプルトップを開ける音。
 まだ硬い空気と土の匂い」

「どうしたんだ…小夏」

「デヘへ。拙者、春の詩人でござる」


床に寝そべっていたサバトラ猫のマルがむくりと起き上がりカウンターの下へ歩いてきた。
マルはジャンプして小夏の膝の上に乗った。
小夏が頭を撫でると…マルは欠伸をしてもう眠りはじめた。
小夏は隣の椅子に置いてあった黒革のトートバッグをカウンターの上に置いた。

「ほれ」

「…ん?」

鞄の持ち手の部分に紐付きの紙のタグがぶら下がっていた。
厚手の和紙をフィルムで覆ったタグだった。
タグには活版印刷風にデザインされた文字が印刷されていた。
 

『叱られて目をつぶる猫春隣』


「おっ。小夏が選んだのはそれか…」

「くぼまん良いよねえ」

「うんうん。この軽味がたまらんのう」

「わたしはね。ずうっと駘蕩でいくんだじょ」

「なんだよ、“じょ”って?」

「そんな気分なの」

「うんうん」

「それよりマコちゃんが選んだ言葉をみせなさいよお」

「ああ。オレのはつくった言葉だ…」

「つくってもらったの?」

「なに言ってる。
 オレの言葉はな…オレがつくったんだ」

その「言葉」は調理場の壁にあった。
その「言葉」が墨で書かれた和紙は無造作にプッシュピンで壁にとめられていた。


「なにアレ!」

「なにってなんだよ」

「だから、なんなのアレはって聞いてんの!」

「人間はな、引込みじあんじゃいけねえなって…」

「・・・・・」

「自分の得意技をバンバン出してドカドカ賑やかにいくぞって」

「・・・・・」

「もう出し惜しみしないでズンズンいくぞって」

「・・・・・・」


壁に掛かっていた「言葉」は…


『能ある鷹の爪』


「マコちゃん…わたしさ…帰る」





DSCF0922 のコピー.jpg


盛岡の春風はまだ冷たい。
暖かな春の来訪を待ちわびるマルが一声長く鳴いて呟いた。

『春浅し空また月をそだてそめ』(久保田万太郎)

マルは…うんうんと頷きひとりごちた。

「世界は素敵な言葉でできている」





Peter Gabriel 「Solsbury Hill」



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コメント 8

johncomeback

アレンジして「能ある鷹の爪のアカ」で使わせていただきます(^▽^)/

by johncomeback (2014-04-06 20:09) 

hatumi30331

言葉・・・大事やね。^^

またヨロシクね〜☆
by hatumi30331 (2014-04-06 20:29) 

ゆうみ

んだっし 飛べない家鴨だって飛んだ気になるんだっし
by ゆうみ (2014-04-06 22:19) 

solty

一番値が張るのはどんな言葉でしょうね。悲しいかな 平和 かな・・。平等 もかなりしそうだ・・。
by solty (2014-04-07 19:09) 

engrid

世界が素敵な言葉計りささやかれてたらいいのに
by engrid (2014-04-08 18:28) 

nicolas

構成がいい。
軽快に進む物語が、ナレーション付きで展開されている感じでした。
最初の件(くだり)も、物売りの文句みたいで楽しかった!
by nicolas (2014-04-08 21:32) 

Sizuku

言葉のソムリエ
実はしてみたい仕事だったりします。
序章からグイグイと引き込まれ、気づいたらラストでした。
読んでいてすごく楽しかったです♪
言葉合戦中のマコ氏の戦いっぷりと
『能ある鷹の爪』サイコーです!(*≧艸≦)
by Sizuku (2014-04-10 14:06) 

cafelamama

>すべての女は慈悲と理不尽のないまぜでできている

これ、名言です。

by cafelamama (2014-04-13 19:10) 

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