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DJバトル


雪がしんしんと降り続けていた夜のこと。

リビングのテーブルの上にはビールとワイン、それにチーズが置いてあった。

ボクとサバトラ猫マルとでDJ合戦が始まった。
ボクがiPadで、マルがiPodだ。
それぞれが別々のスピーカーに接続されていた。

ボクとマルが交互に曲をかける。
前後の曲をミックスして途切れることなく曲を続ける。
なにを選曲するかはお互いの自由だ。

ボクが曲をかけてる最中に……
マルからアイ・コンタクトで「行くぞッ」と合図がきたら、
ボクは曲をフェイドアウトさせマルが次の曲をフェイドインする。

これが意外に緊張する…選曲のセンスが問われるからだ。
ボクが曲をミックスさせた時、マルがあきれ顔で苦笑いを浮かべたりすると
ボクはちょっと傷つく。

今回のDJ合戦はロックしばりだ。
ヒップホップなし、レゲエなし、エレクトロニカなし、ハウスなし……
ごりごりのロックだけだ。


テーマは「血湧き肉躍るDJ合戦」


ビールとワインを飲みながらお互いが曲の気に入ったパートをかけあった。
前後の曲の流れを一致させたり、
前後の曲のミックスでグルーヴさせたり、
時には意識的に相手の前曲を潰しに行く!


およそ1時間が経過したときだ。


マルがディープ・パープル「ハイウエィ・スター」のAメロをかけた。

『Nobody gonna beat my car I'm gonna race it to the ground
 Nobody gonna beat my car It's gonna break the speed of sound
 Ooh, it's a killing machine It's got everything
 Like a driving power Big fat tyres and everything

 I love it and I need it, I feed it 
 Yeah, it turns me on
 Alright, hold tight
 I'm a highway star, yeah 』

リッチー・ブラックモアのギターとジョン・ロードのオルガンが
ユニゾンでリフを刻む。
イアン・ギランがシャウトする。


ボクはマルに目配せして、「ハイウエィ・スター」をジョン・ロードのオルガン・ソロが始まる前にフェイドアウトするように要求した。
マルはiPodのボリュームを徐々に絞っていった。
ボクは次の曲をフェイドインで重ねていった。

レッド・ツェッペリン「天国の階段」をギター・ソロの部分から始めた。
iPadのボリュームをマックスにした。

ジミー・ペイジのギターソロは曲をグイグイと引っぱっていく。
音はうねり螺旋を駆け上がっていった。
風が砂塵を巻き上げた。
「天国の階段」第3部……激しいパートが始まった。

ジミー・ページの切れ味鋭いギター・リフ。
ボンゾの…スネアとバスドラの革がいっちゃいそうな連打。
ジョン・ポール・ジョーンズの独特のベース・ランニング。
ロバート・プラントはハイ・ピッチでシャウトした。

『And as we wind on down the road 
 Our shadows taller than our soul
 There walks a lady we all know 
 Who shines white light and wants to show
 How everything still turns to gold
 And if you listen very hard
 The tune will come to you at last
 When all is one and one is all
 To be a rock and not to roll.

 And she's buying the stairway to heaven 』


すると。
マルは右前脚を舐め次いで顔をなでた。
顔をなでながら口の端を曲げニヤリとマルが笑ったのをボクは見逃さなかった。
マルはなにかをしかけてくるつもりだ……。

『 And she's buying the stairway to heaven 』
ロバート・プラントの独唱の余韻が終わる前にマルは次の曲をかけてきた。
しかもいきなりの大音量だ。

マルは、
三波春夫「俵星玄蕃」を……
「俵星玄蕃」の浪曲のパートを大音量でぶち込んできた。


『時に元禄十五年十月二十四日、
 江戸の夜風をふるわせて、響くは山鹿流儀の陣太鼓、
 しかも一打ち二打ち三流れ、思わずハッと立ち上がり、
 耳を澄ませて太鼓を数え「おう、正しく赤穂浪士の討ち入りじゃ」
 助太刀するは此の時ぞ、もしやその中にひるま別れたあの蕎麦屋が
 居りはせぬか、名前はなんと今一度、逢うて別れが告げたいものと、
 けいこ襦袢に身を固めて、段小倉の袴、股立ち高く取り上げし、
 白綾たたんで後ろ鉢巻眼のつる如く、なげしにかかるは先祖伝来、
 俵弾正鍛えたる九尺の手槍を右の手に、切土を開けて一足表に出せば、
 天は幽暗地は凱々たる白雪を蹴立てて行く手は松坂町……』

『・・・・・・・・
 されども此処は此のままに、槍を納めて御引上げ下さるならば有り難し、
 かかる折りも一人の浪士が雪をけたてて
 サク、サク、サク、サク、サク、サクー、
 「先生」「おうッ、そば屋か」
 いや、いや、いや、いや、襟に書かれた名前こそ、
 まことは杉野の十兵次殿、わしが教えたあの極意、
 命惜しむな名おこそ惜しめ、立派な働き祈りますぞよ、
 さらばさらばと右左。赤穂浪士に邪魔する奴は何人たりとも
 通さんぞ、橋のたもとで石突き突いて、槍の玄蕃は仁王立ち……』


うおおおーッ。

ボクとマルは拳を突き上げ叫んだ。
それからボクの右手とマルの右前脚でハイタッチした。

歌が始まった。

『打てや響けや 山鹿の太鼓
 月も夜空に 冴え渡る
 夢と聞きつつ 両国の
 橋のたもとで 雪ふみしめた
 槍に玄葉の 涙が光る』


マルはボクを見てにっこり笑った。
声に出さなくてもマルが言いたいことは分かった。
『日本に生まれて良かったなあ……』

ボクはマルに言った。声にだして。
「さっ。もっと飲もうぜ!」

マルが大きな声で言った。
「よし。今度は広沢虎造しばりでDJ合戦をやろうぜ!」


外では雪が音もなく降り続けていた。



三波春夫 「俵星玄蕃」




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コメント 6

さとき

ジョジョを読み漁っていたのでロックバンドの名前を見ると俺は、スタンドが頭に浮かびます笑
by さとき (2014-02-15 21:03) 

ゆうみ

マルさん 今度ディトしてください。
by ゆうみ (2014-02-15 23:07) 

engrid

広沢虎造しばり、、なんて守備範囲のひろいことか、、、
マルさん、渋い声でひとなき
by engrid (2014-02-16 00:35) 

johncomeback

「天国の階段」のイントロを聴くと、
胸が締め付けられるような想いがします。
by johncomeback (2014-02-16 17:45) 

yuzuhane

マルちゃん素敵です。にほんにうまれてよかった・・・。。。
by yuzuhane (2014-02-18 22:58) 

ねこじたん

マル氏との掛け合い 楽しそうです!
ワイン いいな〜
by ねこじたん (2014-02-20 12:47) 

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